A 乙型潜水艦
乙型潜水艦は条約明けの昭和12年度B計画による三型式甲、乙、
丙型に属する大型潜水艦であり、12年度B計画で6隻、14年度C計
画14隻の合計20隻が建造された。続いて昭和16年度丸急計画、丸追
計画では主機を変更した、乙型改1、6隻、改2型が3隻それぞれ
建造され、乙型系列の艦は全部で29隻完成した。
之れは大型潜水艦のうちでは最も建造数が多く、同型艦が少ない
と言われる日本海軍の潜水艦のうち異例な事であり、又丙型改にも
本艦型の船型線図が使用されていることからも、優秀な艦型であっ
たことが分かる。
乙型は日本潜水艦隊の主力として活躍したが、16年度計画艦など
に於いては完成が昭和18年中期から年末になり、戦況も悪化した戦
線に投入され、本来の目的に使用される事無く、又大きな期待をか
け搭載した水偵も有効な活躍の機会に恵まれずに終わってしまい、
「伊号第36、58」を除いた全艦が戦没してしまった。
昭和12年度のB、14年度のC計画で乙型「伊15型」20隻が建造され、
12年度の6隻は、伊号第15から第25潜水艦迄の奇数番艦で、昭和15
年から16年後半の開戦前に竣工し、14年度計画の艦は伊号第26から
第39潜水艦迄の連番艦14隻だが(伊26潜から37潜の艦名は当初、伊
27から伊49迄の奇数番を予定していたが建造中に変更された)伊号
第26潜水艦が昭和16年11月に竣工したのを除けば、後の13隻は開戦
後の17年から18年にかけて竣工した。
乙型は甲型から旗艦施設を除いた艦型であり、25mm連装機銃が2
基から1基に減らしているが、基本的には同じ要領で設計されてい
た、旗艦施設を不要とした分小型になり乗員も減少したが又航続力
も若干短少した。しかし巡潜の大航続力と海大型の高速航行力を持
ち、搭載機も零式小型水偵として哨戒、索敵、偵察力を強化し甲型
と同等な性能をもっていた。
用兵的には司令部施設を有する潜水艦、即ち甲型潜水艦を旗艦と
し之れに従い、西太平洋上の米主力艦隊を監視しながら動静を把握
し、機を見て攻撃を加えるという言わば「漸減作戦」を第一の目的と
して建造されている。この為に高速力と長大な航続力を備え、さら
に甲型と同じく小型水偵を搭載し索敵能力の向上を図るなど、当時
の列強海軍でも類を見ない強力な大型潜水艦であり、開戦初期には
此の高性能を充分に発揮して華々しい活躍をし、日本潜水艦中最も
戦果を挙げた艦型である。
開戦直前、昭和16年度丸急計画で乙型潜水艦6隻の建造が決定し
準備されていたが、起工時が既に開戦後となり、搭載するべき大出
力機関「艦本式2号10型」ディーゼルの製造が追いつかず、巡潜3型
と同じ「艦本式1号10型」ディーゼルに変更、「乙型改1」「伊40」型と
して完成された。
乙型改1型は「伊号第40」潜水艦をはじめとし伊号第45潜水艦迄の
連番艦6隻で、昭和18年中期から年末にかけて順次竣工した。性能
面では主機関の変更により若干出力が低下したが速力は良く23.5ノ
ットを発揮し、乙型に比べ大差はなかった。
なお戦争後期、潜水艦の喪失が激しい中、昭和20年迄健在であっ
た乙型改1の5番艦「伊号第44」潜水艦は、人間魚雷「回天」の搭載艦
になるため格納筒、カタパルト等、航空施設と主砲を撤去し「回天」
6基搭載する特攻作戦用の潜水艦に改造され、特別攻撃隊「多々良
隊」を搭載、沖縄海域に向け出撃した。
昭和16年、開戦直後の丸追計画による乙型潜水艦の主機関には小
型の「艦本式22号10型」ディーゼルが搭載された。之れは甲型改1、
2型と同じ経緯によるもので、「乙型改2」「伊54」型と呼ばれ、伊号
第54、56、58潜水艦の3隻が完成した。
前者同様に、航続距離を延伸させたが最高速力は17.7ノットと大
きく減少した、又内殻板の使用鋼材を従来のDS鋼より加工効率の良
いMS鋼(軟鋼)に変更されたが、厚さを増加し鋼板の強度を補い、安
全潜航深度100mを保持した。
このように16年度丸追計画による建造艦は戦時急造艦的感じが濃
くなり、乙型改2型も例外でなかった。しかし完成が戦争末期にな
った本艦型は、戦場より早くから切望されていた電探、「対水上用
22号電探」を竣工時から装備、又魚雷搭載量を2本増加19本とする
など、実戦から得た戦訓を実施しながら、厳しい戦況に対抗しよう
と戦力の向上に努めている。
このような状況下に就役した、乙型系最後の艦「伊号第58」潜は、
建造時より主砲とその関連装置が撤去され、特攻兵器「回天」の搭載
艦として完成した。この伊号第58は昭和19年9月に竣工したが、時
すでに飛行機搭載艦として行動の機会が失われており、残された最
後の作戦「回天」戦に参戦、米重巡インデナポリスの撃沈などの殊勲
を挙げ、3回にも及ぶ出撃にもかかわらず無事帰還を果たし、無傷
で終戦を迎えた。
乙型 (伊15型)
伊号弟15 昭和15年9月30日竣工 昭和17年12月24日除籍 呉工廠で建造
伊号弟17 昭和16年1月24日竣工 昭和18年12月1日除籍 横須賀工廠で建造
伊号弟19 昭和16年4月28日竣工 昭和19年4月30日除籍 三菱神戸 で建造
伊号弟21 昭和16年7月15日竣工 昭和19年4月30日除籍 川崎重工 で建造
伊号弟23 昭和16年9月27日竣工 昭和17年4月30日除籍 横須賀工廠で建造
伊号弟25 昭和16年10月15日竣工 昭和18年12月1日除籍 三菱神戸 で建造
伊号弟26 昭和16年11月6日竣工 昭和20年3月10日除籍 呉工廠で建造
伊号弟27 昭和17年2月24日竣工 昭和19年7月10日除籍 佐世保工廠で建造
伊号弟28 昭和17年2月6日竣工 昭和17年6月15日除籍 三菱神戸 で建造
伊号弟29 昭和17年2月27日竣工 昭和19年10月10日除籍 横須賀工廠で建造
伊号弟30 昭和17年2月28日竣工 昭和19年4月15日除籍 呉工廠で建造
伊号弟31 昭和17年5月30日竣工 昭和18年8月1日除籍 横須賀工廠で建造
伊号弟32 昭和17年4月26日竣工 昭和19年6月10日除籍 佐世保工廠で建造
伊号弟33 昭和17年6月10日竣工 昭和19年8月10日除籍 三菱神戸 で建造
伊号弟34 昭和17年8月31日竣工 昭和19年1月5日除籍 佐世保工廠で建造
伊号弟35 昭和17年8月31日竣工 昭和19年4月30日除籍 三菱神戸 で建造
伊号弟36 昭和17年9月30日竣工 昭和20年11月30日除籍 横須賀工廠で建造
伊号弟37 昭和18年3月10日竣工 昭和20年3月10日除籍 呉工廠で建造
伊号弟38 昭和18年1月31日竣工 昭和20年3月10日除籍 佐世保工廠で建造
伊号弟39 昭和18年4月22日竣工 昭和19年4月30日除籍 佐世保工廠で建造
伊号弟21、伊号第23の艦名は二代目である。
乙型改1 (伊40型)
伊号弟40 昭和18年7月31日竣工 昭和19年4月30日除籍 呉工廠で建造
伊号弟41 昭和18年9月18日竣工 昭和20年3月10日除籍 呉工廠で建造
伊号弟42 昭和18年11月3日竣工 昭和19年4月30日除籍 呉工廠で建造
伊号弟43 昭和18年11月5日竣工 昭和19年4月30日除籍 佐世保工廠で建造
伊号弟44 昭和19年1月31日竣工 昭和20年6月10日除籍 横須賀工廠で建造
伊号弟45 昭和18年12月28日竣工 昭和20年3月10日除籍 佐世保工廠で建造
乙型改2 (伊54型)
伊号弟54 昭和19年3月31日竣工 昭和20年3月10日除籍 横須賀工廠で建造
伊号弟56 昭和19年6月8日竣工 昭和20年6月10日除籍 横須賀工廠で建造
伊号弟58 昭和19年9月7日竣工 昭和20年11月30日除籍 横須賀工廠で建造
伊号第54、56、58の艦名は二代目である。
乙型潜水艦要目表
要目 乙型(伊15型)の新造時を示す。
基準排水量 水上 2,198トン、 水中 3,654トン。
全長 108.70m、最大幅 9.30m、吃水 5.14m。
機関 艦本式2号10型ディーゼル機関 2基2軸。
出力 水上 12,400馬力、 水中 2,000馬力。
速力 水上 23.6ノット、 水中 8.0ノット。
航続距離 水上 16ノットで14,000浬、水中3ノットで96浬
燃料塔載量 重油 774トン。
安全潜航深度 100m。 乗員 94名。
兵装 40口径14cm単装砲1門、25mm連装機銃1基、
53cm魚雷発射管(艦首) 6門 (艦尾)なし
魚雷搭載数 17本。
射出基 1基、零式1号水偵 1機。
要目 乙型改1(伊40型)の新造時を示す。
基準排水量 水上 2,230トン、 水中 3,700トン。
全長 108.70m、最大幅 9.30m、吃水 5.20m。
機関 艦本式1号甲10型ディーゼル機関 2基2軸。
出力 水上 11,000馬力、 水中 2,000馬力。
速力 水上 23.5ノット、 水中 8.0ノット。
航続距離 水上16ノットで14,000浬、水中3ノットで96浬。
燃料塔載量 重油 795トン。
安全潜航深度 100m。 乗員 94名。
兵装 40口径14cm単装砲1門、25mm連装機銃1基、
53cm魚雷発射管(艦首) 6門 (艦尾)なし
魚雷搭載数 17本。
射出機 1基 零式1号水偵1機。
要目 乙型改2(伊54型)の新造時を示す。
基準排水量 水上 2,140トン、 水中 3,688トン。
全長 108.70m、最大幅 9.30m、吃水5.19m。
機関 艦本式22号10型ディーゼル機関 2基2軸。
燃料塔載量 重油 ・・・トン。
出力 水上 4,700馬力、 水中 1,200馬力。
速力 水上 17.7ノット、 水中 6.5ノット。
航続距離 水上16ノットで21,000浬、水中3ノットで105浬。
安全潜航深度 100m。 乗員 94名。
兵装 40口径14cm単装砲1門、25mm連装機銃1基、
53cm魚雷発射管(艦首)6門(艦尾)なし
魚雷搭載数19本。
射出機 1基 零式1号水偵」1機。
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B 丙型潜水艦
昭和12年の第三次軍備補充計画(通称B計画)では、甲、乙、丙型の
三種類の艦が計画され、甲型が旗艦として、乙型が偵察を主な任務と
して行動するように諸施設が強化されたのに対し、丙型は専ら攻撃を
専門とする強力な武装を持つ潜水艦として建造された。
昭和12年度B計画で5隻、16年度丸急計画で3隻、計8隻建造され
たのが丙型「伊16型」と称され、続いて開戦直後の丸追計画で、主機艦
を小型の「艦本式22号10型」ディーゼルに変更した、丙型改と呼称さ
れる「伊52型」が3隻、呉工廠で建造され昭和18年12月から19年4月に
かけて完成した。
丙型は本来乙型から航空施設を除き、所要の設計変更を加えた新し
い艦型を予定していたが、時期的に完成を急ぐため、急遽巡潜3型の
船体線図を採用し建造された。
本艦型の大きな特徴は、旗艦設備や水偵を搭載せず、魚雷兵装を強
化した事にあり、魚雷搭載数を20本とし、発射管を甲、乙型より2門
多い8門全てを艦首に集中して装備、全数発射、8射線による命中率
の向上が図られている。この発射管8門を全て艦首に設けると言う画
期的配置は日本潜水艦では初めての事であったが、巡潜3型では既に、
艦首発射管の下部に、発射管を想定した魚雷格納庫が2門、施されて
おり船型そのままで、之れに問題がなく、好都合であった。
兵装を見ると雷装以外は乙型と同等であったが、14cm主砲が水偵用
格納庫を撤去した艦橋前部に移設されている。又性能面では主機関に
甲、乙型と同じ「艦本式2号10型」ディーゼルを採用し、航空施設こそ
持たないが、あらゆる面で高性能を発揮し甲、乙型に劣らず、世界で
最も強力な武装を持つ潜水艦であり、日本海軍の大きな戦力として活
躍した。
B計画の5隻「伊号第16、18、20、22、24潜水艦」は開戦前に竣工し、
「甲標的」搭載艦としての施設が施された、之れは、前部甲板に移設し
た14cm主砲跡に設置し、ここに「甲標的」1基を搭載するものであった。
緒戦には、之れを搭載、真珠湾攻撃や敵の港湾、泊地に潜む艦船攻
撃に出撃し戦果を上げた。
昭和16年度、丸追計画による丙型3隻の「伊号第52、53、55、」潜水艦
は丙型改(伊52型)と呼称され、乙型から航空施設を除いた船体線図を
そのまま使用し建造された。之れにより魚雷発射管は艦首6門になっ
たが、艦橋前の航空施設の跡に14cm砲1門搭載し、艦橋前後に各1門、
計2門と巡潜1型に類似した兵装になっている。
本艦型も、甲、乙型の丸追計画艦と同様、高出力主機械の生産不足
により、製作容易な艦本式22号10型機関を搭載、速力低下の代償に航
続距離が延伸することで忍んだ。
この丙型改の3隻は航空施設を持たないだけで、艦型又性能面でも
乙型を踏襲しており、従って「乙型改2」より航空施設を除き代わりに
14cm砲1門増した艦型と見ることが出来る。
なお2番艦伊号53潜水艦は竣工後、艦橋前後の備砲2門を撤去し、
特攻兵器「回天」6基の搭載設備を施すため改造工事を受けると共に、
近代戦に対応するため22号電探を装備し終戦時まで健闘し続けた。
丙型 (伊16型)
伊号弟16 昭和15年3月20日竣工 昭和19年10月10日除籍 呉工廠で建造
(船体は三菱神戸)
伊号弟18 昭和16年1月31日竣工 昭和18年4月1日除籍 佐世保工廠で建造
伊号弟20 昭和15年9月26日竣工 昭和18年12月1日除籍 三菱神戸 で建造
伊号弟22 昭和16年3月10日竣工 昭和17年12月15日除籍 川崎重工 で建造
伊号弟24 昭和16年10月31日竣工 昭和18年8月1日除籍 佐世保工廠で建造
伊号弟46 昭和19年2月29日竣工 昭和20年3月10日除籍 佐世保工廠で建造
伊号弟47 昭和19年7月10日竣工 昭和20年11月30日除籍 佐世保工廠で建造
伊号弟48 昭和19年9月5日竣工 昭和20年5月10日除籍 佐世保工廠で建造
丙型改(伊52型)
伊号弟52 昭和18年12月8日竣工 昭和19年12月10日除籍 呉工廠で建造
伊号弟53 昭和19年2月20日竣工 昭和20年11月30日除籍 呉工廠で建造
伊号弟55 昭和19年4月20日竣工 昭和19年10月10日除籍 呉工廠で建造
伊号第52、53、55の艦名は二代目である。
伊号第53は昭和21年4月1日五島沖で米軍により海没処分。
丙型潜水艦要目表
要目 丙型(伊16型)の新造時を示す。
基準排水量 水上 2,184トン、 水中 3,561トン。
全長 109.30m、最大幅 9.10m、吃水 5.34m。
機関 艦本式2号10型ディーゼル機関 2基2軸。
出力 水上 12,400馬力、 水中 2,000馬力。
速力 水上 23.6ノット、 水中 8.0ノット。
航続距離 水上 16ノットで14,000浬、水中3ノットで60浬
燃料塔載量 重油 744トン。
安全潜航深度 100m。 乗員 94名。
兵装 40口径14cm単装砲1門、25mm連装機銃1基、
53cm魚雷発射管(艦首) 8門 (艦尾)なし
魚雷搭載数 20本。
射出基 なし 搭載機 なし
要目 丙型改(伊52型)の新造時を示す。
基準排水量 水上 2,095トン、 水中 3,644トン。
全長 108.70m、最大幅 9.30m、吃水 5.12m。
機関 艦本式22号10型ディーゼル機関 2基2軸。
出力 水上 4,700馬力、 水中 1,200馬力。
速力 水上 17.7ノット、 水中 6.5ノット。
航続距離 水上16ノットで21.000浬、水中3ノットで 105浬。
燃料塔載量 重油 780トン。
安全潜航深度 100m。 乗員 94名。
兵装 40口径14cm単装砲 2門、25mm連装機銃1基、
53cm魚雷発射管(艦首) 6門 (艦尾)なし
魚雷搭載数 17本。
射出機 なし 搭載機 なし。
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